京都地域創造基金は2009年8月7日、京都府から認定の公示が行われ、京都府の公益認定第1号となりました。同基金は300名を超える市民からの寄付300万円により設立された市民立ともいえる公益財団法人です。同基金・深尾昌峰理事長から財団の設立から公益認定の経緯、今後の活動の戦略と展望についてご寄稿いただきました。

(写真提供:京都地域創造基金)
京都地域創造基金は2009年3月に一般財団として設立し、同年8月に公益財団として認定された、まだまだ駆け出しの公益法人である。この財団の設立までの動きと今後の展開を、まだまだ歴史が浅い故に稚拙ではあるが書き綴らせていただく。
■NPO支援の中で
この財団は特定非営利活動法人きょうとNPOセンターの創立10周年記念を契機とし、多くの皆さんの知恵とチカラを結集させて設立されたという変わった経緯をもっている。きょうとNPOセンターは1998年に設立され、99年に法人化をした民間のNPO支援組織である。設立以降、京都を中心とする市民活動の振興と活動基盤の整備を主な事業として展開をしてきた。
この十数年のきょうとNPOセンターの活動を振り返ると大きく2つの時期にわけることができる。1998年から2002年頃までの萌芽期はちょうど特定非営利活動促進法の成立と重なることからも容易に想像できるように、NPOや市民活動自体を社会に定着させる、換言すればNPOの社会的認知を高める社会的要請に応えることが業務の大部分を占めた時期でもあった。事業もNPOの設立講座や「NPOとは何か」という講演の依頼等が多かったのもその事実を裏付けている。ただ、きょうとNPOセンターとしてはその時期から、少々こだわった事業展開を行ってきた。例えば日本で初めてのNPO法人放送局となった「京都コミュニティ放送」(http://radiocafe.jp)の設立は啓発からアウトリーチへと導く重要な事業でもあった。
そういった中で、社会的認知の質の向上に取り組みつつ、2003年以降は、協働型社会への移行に伴う動きを作り出す仕事が断然多くなった。自治体の政策に対してのアドバイスや提言を求められることも多くなり、社会全体も「協働」というコトバがすっかりと定着をしていった。そんな中、私たちは現場に依拠しながら「市民活動ができること」から「市民活動だからこそできること」をより多くプロデュースしていきたいと考えていくようになる。後述するが、NPOが一定の社会的認知を果たした今、本当の意味で市民発の公益活動が社会に根付き、支えられるかという大きな岐路にさしかかったという認識が我々にあり、それをきちんと消化し乗り越えないと、少し長かったNPOブームで終わってしまうという危機感がこの財団設立のエネルギーとなったことは間違いない。
■悔しさの中から
この財団の設立には現場での幾つかの「悔しさ」が強いエネルギーになっている。ここではその中でも2つの「悔しさ」から設立動機を振り返ってみたい。
1つめは「資金調達」に関連した「悔しさ」である。先に述べたラジオ局の開局やその他事業性のある事業に携わるようになると、当然「資金繰り」が大きな課題として横たわってくる。これは、中小企業であろうが、大企業であろうが、公益法人であろうが、一定規模の事業を行うためには資金が必要である。この資金を自分たちだけで調達できればそれに越したことがないが、スケールがある一定を越えるとそれにも限界がある。そこで、多くの事業体が行うように、金融機関に融資を申し込むことになる。私が経験した事例でいうと、ラジオ局の開局がそれにあたる。ラジオ局という「許認可」で守られた、分かりやすいビジネスモデルであるにも関わらず、金融機関には融資の実行は不可能と断られた。NPOが言葉としての社会的な認知は進んだけれども、融資実行などに代表されるような、社会の信用や仕組みにビルトインされるまでには至っていなかったのである。金融機関からは有限か株式の会社形態でやってもらえませんかと何度もいわれた。当時は、事業をボランティアが支えるということや寄付や会費が財源になるということを理解してもらうことは非常に困難なことであった。「資本金がない」ということも理解を阻む要因であった。くどくどと書いたが、要は金融機関が融資を実行するということが難しく、NPOや社会的企業の芽がなかなか出ない状況であった。これが1つめの「悔しさ」である。
あと1つの「悔しさ」は理論と実践の乖離の中にある。これはNPOの存在の意義と意味に関わる問題である。一部の研究者の愛ある表現の中に「日本にNPOは存在しない」との指摘がある。NPOを原理的にそして学問的に見るとこの指摘には一理あり、財源に公的な資金、つまり税金が投入されている以上、到底民間と呼べないという論理だ。この指摘は、理念なき「協働」の名のもとに行政に取り込まれつつある現在の状況と照らし合わせると、乱暴という指摘はあたらず、むしろ理論的には至極当然な指摘である。しかし、現場の皮膚感覚では大いに疑問と悔しさがわき上がってくるのである。目の前に横たわっている社会の課題に対して、何とかしたい、自分たちが行動することで課題の解決につながる、まちが変わるという手応えを手中にした市民活動は、協働型社会への過渡期的な状況で、役所の仕事を請け負うという必然にさらされている。私は過渡期的な状況の中ではこの点に少なからずの「必然」があると思っている。予算があって、自分たちの活動のテーマとしていることで、だけど行政には任しておけない……。そうなったら自分たちが「委託」を受け「行動」することで少しでも社会的な効果が高まるのだったら、社会がよりよくなるという確信のもとに行動に移すということはNPOをベースに行動する人々の心理としては自然なものに思えて仕方がない。
ただし、それが「いい」といっているのではない。過渡期的状況でという限定だ。ここに私たちがこの財団を創ったもう一つの「悔しさ」がある。つまり、私たちも必ずしも「いい」と思わないが、「公的な資金」が自治体に集中する私たちの社会においては、資金の配分に際し、自治体の権限と差配に大きく依拠せざるを得ない。その結果、NPOと行政の同質化が進行してしまう可能性、つまりNPOの官僚組織化や自治体の方ばかり見てしまう風見鶏型のNPOが発生してしまう危険性がある。一般によく指摘される自治体の下請に成り下がってしまう危険性である。この危険性をはらんでいることは、現場でも大きな危機感を持っている。
このような明らかな過渡期的矛盾を解決する方策として、地方自治法改正へ向けた取り組みと共に、この現象をきちんと制度やシステムの問題として捉え、「新たな公共の担い手」を支える多様な資金の流れを創出していくという必要があり、私たちきょうとNPOセンターが設立初期から掲げてきたコンセプト「市民活動を支えるのは市民社会」を具現化する仕組みとしてこの財団の立ち上げにつながってくるのである。
■徹底した「市民財団」を目指す
設立構想自体は約3年前から持ってはいたが、追い風となったのは「公益法人改革」である。新公益法人制度の施行で基本財産300万円で財団法人が設立できるようになったこと、限りなく今までの行政裁量型の仕組みからよりオープンな仕組みに変化したことが私自身の構想に加速をもたらした。そこで、2008年度の内閣府官民パートナーシップ事業において研究会を組織し、具体的な検討に入った。研究会での議論が具体的になり、いよいよ「運動」としてこの財団を世の中に出していくときに私たちが一番こだわったのは、多くの人々の参画をどう組織していくかということだった。基本財産にしても300万円を拠出するのは、自治体に求めたら協力いただけただろうし、懇意にしている経済人にお願いすれば出捐してもらえたかもしれない。しかし、私たちはこの財団の基本財産を市民による寄付によって拠出することにこだわった。1人の300万円より300人の1万円の道を選択した。これは、一見まどろっこしいように見えるかもしれないが、この財団が本当に社会に必要とされているかどうかを肌で感じる重要なマーケティング活動でもあった。特にきょうとNPOセンターの職員に寄付のお願いチラシを持ってNPOのみなさんに寄付をお願いする行為(=「営業」活動)を行わせることは教育的な意味も含めて重要なことだと思っていた。寄付期間を半年と設定し、半年で300万円(つまり300人の賛同)が集まらなければ、寄付金をお返ししてこの構想を白紙に戻そうと私は心に決めていた。集まらない事実は、この財団の持つ機能が、NPOの人々に必要とされていないことを意味し、機能への必要性は同意したとしても、「誰かがやってくれる」という姿勢では完全な「お客さん」となり、主体性が薄れNPOの自立につながっていくはずもない。
それらの心配は結果的に杞憂となり、私たちの予想を超えるペースで貴重なお金を私たちに託して下さった。この事実に私たちがどれだけ励まされたかわからない。京都の「民力」の高さを改めて実感することができた。この営みは今後の財団の方向性を規定したと言っても過言ではないと思っている。また、職員の中でも熱心にチラシを持って様々な人に寄付をお願いした職員は確実に成長した。今、社会変革の現場で何が求められているかを、寄付をお願いするという行為の中で肌で感じることが出来たのだ。私は真摯に向き合った職員を誇りに思っている。
■初年度の事業
設立年度である今年度、京都地域創造基金は3つの事業を展開する。まず、「事業指定寄付制度」である。公益活動を行う団体が財団に事業を申請いただき、公益性があり、一定の要件をクリアしていれば財団は助成決定を行う。一般的には「助成決定=交付」だが、この時点で財団には資金がない。それを申請団体、財団が総力を挙げて寄付勧誘を行う。この仕組みを実現することで、実質地域社会で公益事業を展開している多様な主体に、税制優遇機能を提供することができる。
2つめは冠ファンドの形成である。企業や個人などが、まとまった額を財団に寄付し寄付者の意向に沿った形で助成プログラムや褒賞プログラムなどを展開することができる。
3つ目は「融資」である。NPO法人を中心とする市民公益活動に対し、融資を行う。将来的には法人格のない団体等に対応することも視野に入れると直接金融としての機能も必要になってくると考えているが、現時点は地元の金融機関と提携した融資制度を始めた。これは10月1日から取り扱いを開始したが、多くのNPOからの問い合わせをいただいている。
今後は不動産などの利活用プログラムを金融機関などと連携して展開していくことや、自治体と連携した新たなガバナンス構築に向けた資金提供システムの構築などを視野に入れて事業内容の開発に取り組んでいきたいと考えている。常に事業が「進化」していく、財団経営に取り組んでいきたいと考えている。
■どのようなNPOを応援しどのような社会を創っていくか
私たちはこの財団の英語名を「Kyoto Foundation For Positive Social Change」と定めた。そこにはよりよい社会を創っていく、変革していく少し「前のめり」の団体を支援していきたいとの想いを託している。私たちの財団は社会と市民活動の世界を橋渡ししていく役割だと思っている。社会変革に向けて努力し行動している人々と、それらを応援したい人々をつなぐ架け橋としての役割が期待されている。私たちは真の架け橋になるためには、NPO側へも変革を迫る必要があると考えている。それは架け橋が一方通行の細い橋にならないように、NPOサイドが徹底した情報公開を行う仕組みをセットするということである。支援者である資金供給サイド(寄付者)が安心して資金を託すことのできる環境整備が求められている。京都では現在それらを「社会的認証」の仕組みとして整備できないかと試みを続けている。具体的には、情報開示ポータルサイト「きょうえん」(http://kyo-en.canpan.info)を運営し、京都の地域とまちづくりを応援したい人や、行政・企業・助成財団などの団体のみなさんに、NPOを中心とする公益活動の情報を提供している。きょうとNPOセンターがこのサイトの中で登録・公開される団体情報を一定の基準に基づいてチェックし、掲載内容が実際の文書内容と一致するなどして、掲載情報が確認された団体に、信頼性の証として 「認証マーク」を付与している。これにより単に情報量だけでなく、質的向上も同時に実現していこうとする取り組みである。京都地域創造基金の各種メニューを利活用していただくためには、この「認証マーク」の取得が必須となる。支援を受ける資格、責任、支援者が自ら寄付先を選択できる多角的な情報をきちんと提供することで、幅広い層からの支援へと広げていきたいと考えている。
■これからのビジョン〜アライアンスの結節点でありたい
この財団は潤沢な資金があるわけではない。逆に資金的には財団と呼ぶのがおこがましいような状況である。このことは公益財団法人格を取得して証券会社からの営業が飛躍的に増えたが、私たちの状況を一度説明すると二度と来られなくなった状況でも明らかである。私たちの財団の重要な点は、財団が一方的に資金援助をするという関係性ではないという点である。私たちは社会からお預かりした税制優遇という武器をもとに、寄付金の開拓をすすめるが、この行為自体をNPOと共有していくことが必要だと思っている。分かりやすく言えば、「共に汗をかく」ということである。
お金がないということは苦しく辛いことである。しかし、お金の代わりに私たちが武器としようとしているのは、知恵とネットワークである。特にこのネットワークは大きな可能性を示唆している。私たちは、設立の過程でどうしてもアライアンスを結びたい先として金融機関との連携は不可欠だと考えた。例えば、融資制度を持つにしても、土地などの運用の仕組みをもつにしても、金融機関のシステムとノウハウは私たちが簡単に習得できるものでない。また、そこにエネルギーを割く余裕も現実的にはない。地域社会のあるべき姿を共有した上で、金融機関と連携できるのであればこれ以上心強いものはない。次は人材育成の分野などでは大学や高等学校などとのアライアンス構築、新たな公共施設経営モデルの構築では、指定管理者と自治体とのアライアンスの構築などが確実に射程に入ってきた。こういった諸機関とのアライアンスをこの財団は大切にしていく。これがこの財団の重要な使命であり、私が長年いい続けてきた「Plus Social」をコンセプトワードにおいた理由でもある。知恵とネットワークをエンジンと燃料にして私たちは今からの長い旅路を豊かなものにしようと思っている。
この財団はスタートと同時に京都府の緊急雇用対策事業である「社会貢献団体を支援する地域資源循環システム創出事業」を受託し積極的に事業を展開しつつある。財団の機能をより地域社会に定着化させることにより、NPOへの寄付を中心とする資金流入額を増やしていくことができる。そのことは、NPOの労働市場もより一層開拓していくことにつながり、NPOが真の雇用セクターとなっていくことに寄与していけると考えている。
ただ、そのためには、全国の様々な機関と連携して変革を成し遂げなければいけない課題もある。それは、喫緊の課題は「税制」の問題、特に租税特別措置法40条に基づく「みなし譲渡」不適格要件の改善である。これが改善されると地域社会で遺贈を中心とする土地の有効活用に大きく道が開かれることになる。私は志ある市民から提供された資源を地域の社会資源に変えていく媒介役を公益法人はより積極的に意識し行動すべきだと考えている。その視点からも、公益法人が本来的な役割を取り戻すためにも、租税特別措置法の改善を望みたい。
この京都地域創造基金の事業を通じて、私たちは大げさにいうと「市民による革命」を成し遂げたいと考えている。「真の公共の新たな担い手」を支える仕組みを作り出し、公正で公平な社会の実現に向けた歩みを始めた私たちの財団に暖かいご支援をいただければ幸甚である。
(公益財団法人京都地域創造基金 理事長 深尾昌峰)